人間が理解しているかどうか、
知覚しているかどうかにかかわらず、
あらゆるシステムは多面体である
― Richard Buckminster Fuller (1985-1983)
筋膜とは、各筋肉(と筋肉群)を包んでいる結合組織です。
わかりやすい表現では、一般的に「シートのような膜」と平たく説明されることも多いですが、
主に水とコラーゲンからなり、弾力性と柔軟性を兼ね備えています。顕微鏡で細かく見ると、シート状というより水飴のような素材で出来た「クモの巣」のようなものです。
筋膜は1つ1つの筋肉を包んでいて、身体の各パーツによっては、更に近隣にある複数の筋肉群をひとまとめにして包んでいます。それに繋がる組織は、腱や靭帯、骨膜、腹膜、漿膜・・など部位によって名称は変われど、どれも私達の身体の形状に関与しています。
これが私達1人の人間の、身体の形状や位置を形づけています。見た目の姿勢(骨格・筋肉)だけではなく、身体の内側にある内臓の位置も筋膜の状態によって左右されています。そのため単なる運動動作に限らず、内臓器官の働きにも影響を与えています。
アイダ博士はこれを「構造の器官」と呼びました。ロルフィングはこの筋膜に対して働きかけていきます。
また、筋膜が健康で、みずみずしくあればある程、筋膜と筋膜の間に適度な潤いが生まれ、筋肉の動きがスムーズになるだけでなく、身体全体への血液や栄養の運搬、老廃物の排出などがスムーズに行われるという利点もあります。
ところが、ケガや手術などによる身体的な外傷、それを補うために習慣づいてしまったクセ、感情的・精神的なストレスの蓄積、仕事上の繰り返し動作・・・などの状態が長期間続くと、やがて筋膜は水分を失い、周辺の筋膜との癒着を起こし、その制限は身体全体に広がって行きます。
地球上の生物にとって水分はなくてはならない構成要素です。
身体はほとんど水分で出来ているといっても過言ではありません。
身近なシーンで言えば、
ケガなどの組織の損傷時は、傷口の治癒過程でどうしても周辺組織の水分保有率は下がりますし、ストレス下にある時は
闘争本能が働き、交換神経優位になるため、喉のかわきが強まったりします。また、現代人でストレスの多い生活をしている人には乾燥肌やドライアイが多いのも、身体の防衛反応による脱水症状(dehydration)の現れの1つです。それと同じことが筋膜にも起こっているのです。
筋膜が縮んだ状態、すなわち、身体が常に圧縮された状態(身体の内外のスペースがない)では、心にも身体にもゆとりがなくなってきます。
ロルフィングでは、その硬くなった筋膜を、ゆっくりしたストロークや、持続的な圧を加えることにより筋膜の潤いと張力を取り戻していきます。圧縮したスペースにゆとりをもたらし、筋膜にかつての感覚を思い出させ、楽な状態を身体に記憶してもらうのです。
筋膜は感覚器や神経系とも密接なつながりがあるので、単に縮んだ部分を伸ばすという作業ではなく、受け手自身の知覚をも働かせながら進める方が、より持続性が高い傾向があります。
身体のあちこちを包んでいる筋膜は、部位によって包む対象は違えど、最終的には、全ての筋膜は途切れなく続くネットワークを形成しています。もし身体じゅうの筋膜を上手に広げたなら、大きな1枚のシートになると想像してもいいでしょう。体感的には、他の部位にワークすると別のキツかった部分も同時に緩んでいることに気づくこともあるでしょう。